レバー、ダンス、原子力

生レバーについて考えてみよう。

生レバーがこの6月いっぱいで食べれなくなる。
非常に悲しいことだ、と書きたいけれど、
そもそも私は生レバーを食ったことがあったっけ?
馬刺しならあるが、生レバーは無い気がする。ユッケは食べた。

ともかく、6月いっぱいで生レバーは禁止になる。いったん。
この「いったん」というのが大事で、
何も厚労省は未来永劫日本人が生レバーを食うことを
禁止しているわけじゃない。
どうしても食いたい人は韓国に行って食べればいいし、
安全に生肉を処理する技術ができたら法律が変わるかもしれない。
とりあえず今の時点ではレバーを食うのは危険だと考え、
国民の自己責任にせず、法律で禁止したわけだ。

じゃあ、レバーを食うのは果たしてどのぐらい危険なのか?
それはタバコを吸うのとどっちが危険か?
あるいは自動車に乗るのとどっちが危険か?
もしレバーが自動車より安全だというなら、
レバーを禁止した以上自動車も禁止しても理論上はおかしくない。
もっとも、レバーを食わなくても別に食べるものはあるけど、
自動車に乗れないと非常に困る人が多い、という違いはあるのだが。

――――――――――――――――――――

・カンピロバクター。
・サルモネラ属菌。
・腸管出血性大腸菌。(O157とかそういうやつ)

この3つがレバーにまつわる主な危険だといわれている。
どれも腸にくるタイプで、腹痛、下痢、嘔吐などをともなう。
最悪の場合、死に至ることや、後遺症が残る場合もある。

この「最悪の場合」というのはまさしくキラーフレーズで、
これさえ出してしまえば、割と感情論・印象論でなんとかなってしまう。
実際にはすごくまれなことだったとしても、
「最悪の場合」を滔々と語られることで、実際以上の恐怖が感じられる。

では、レバーを食べて「最悪の場合」に至る確率はどれぐらいか?
あるいは、その前段階の下痢・嘔吐になる確率はどれくらいか?

あいにく、レバ刺しが全国でどのくらい売上があるのかとか、
あるいはレバ刺しを出しているお店が全国で何件あるのかとか、
そういうデータは見つからなかった。
かわりに政府が出している、牛の検体データを見てみよう。

牛の肝臓には、11.4%の確率でカンピロバクターが含まれている。
そして、腸管出血性大腸菌は、6%の確率で存在する。

これを足して、牛の肝臓は17.4%の確率で危険、というのは早とちりである。
カンピロバクターもO157も両方含んでいる肝臓があるだろうから、
実際は17.4より少し小さくなるはずである。どのくらい小さくなるかはわからない。

そして、11.4%の確率でカンピロバクターが入っているからといって、
それが確実に発症するものなのかどうか、も微妙なところである。
食べた人間の健康状態にもよるだろうし、
どのぐらいの菌数がふくまれているかにもよる。

あと、もととなるデータ自体にだいぶブレがあって、
菌の保有率が数%~40数%のあいだでいろいろある。
O157も、1%~20%ぐらいまで、検査によって牛の感染率がだいぶ違う。

そもそも、感染症のリスクをはかるのは根本的に難しいところがある。
というのも、汚染された生レバーを食べると即下痢&嘔吐というわけではなく、
何日か経ってから発症する。カンピロバクターは2日~7日の潜伏期間。
その期間が経ったあとで発症したとき、
何が原因物質だったかということの特定はとても難しい。
たとえば、焼き肉屋でレバ刺しを食べて数日後に発症したとしても、
それはレバ刺しが悪いのか、よく焼かずに食べた肉が悪いのかというのは、
実際のところわからない。そのため、国の統計では原因物質のことを
「牛レバーを含む食事」といった少しもってまわった言い方にしている。

そういう限界をふまえると、厚生労働省が牛の肝臓をチェックして、
何割の確率で菌が含まれてるかを計算したのは、割と正しい。

ただ、だからといって、レバ刺しを食べた人の11.4%が発症するほど、
レバ刺しが危険な食品だというのはあんまり実感がわかない。
もう少しリスクは小さいような気がする。ただそれがどれくらいなのかはわからない。

――――――――――――――――――――

生レバーのリスクを減らす方策として、
「生レバー調理師免許」という考え方はそこそこ人気があるけど、
実際には「生食用食肉の衛生基準」というのが既にある。
ただ、あんまり詳しいことはわからないが、
これを守るのはけっこうなコストがかかるらしい。

もちろんちゃんと守って生レバーを出しているお店もあるが、
守らずに出しているお店も5割ほどあって、
なぜかそういうお店は罰を受けていない。
強制的に守らせるようにすればいいのではないか、と思うのだが、
なぜかそういう風にはなっていない。
罰則無しでいきなり禁止に踏み込む理由は、少し不可解だ。

ただ、この衛生基準を守っても、まだ実は危険が残っている。
衛生基準にそって処理し、「トリミング」や「細切」を丁寧にやっても、
あくまで「表面の菌」が取り除かれるだけで、
肝臓内部の菌までは取り除かれない。
カンピロバクターは実際、しばしば肝臓の中に入り込んでしまうのだが、
もし肝臓内部を汚染されていた場合、
いくら表面を削ったところで細菌は残ってしまう。
衛生基準を守っても、危険はゼロにはできないのだ。

だが、この危険を取り除く(かもしれない)方法が、
実はたったひとつだけある。

放射線。

みんなの嫌われ者でおなじみの原子力委員会が、
「食品への放射線照射について」というレポートを出している。
それによると、アメリカの食肉業界では、
すでに殺菌を目的とした放射線照射が行われているし、
EUやオーストラリアなんかでも、スパイス類に放射線が使われている。
スパイス類は微生物の汚染率が高いうえに、
加熱や薬品散布といった殺菌方法が取りづらいことから、
放射線照射がひろく使われているらしい。

実は日本でも、放射線照射された食品は出回っている。
たとえば一部のジャガイモは、出荷後の発芽抑制のために
放射線を当てられているし、スパイスに関しても全日本スパイス協会が
「殺菌のための放射線照射を許可してほしい」という要請を出している。
ちなみにこの要請は2000年に出されたのだが、
消費者団体の反対にあって頓挫した。
今のところ、日本では香辛料が原因となる食中毒は起きていないから、
特に問題はないのだが、海外ではそういう事例もあるらしい。

今の日本の状況を考えると、
「生レバーを食べるために放射線照射を」なんて言いだそうものなら
たちまち東電の手先あつかいで吊るし首間違いなしだが、
いっぽうではそういう選択肢もある。
原子力の平和利用というのはなにも原発だけの話じゃないし、
ガン治療にだって放射線は活用することができる。
原発が仮に悪の権化だったとしても、それで全部放射線がダメ、
ということにはしないでほしいと思う。

今日のタイトルは、「禁止されそうなもの」ということで
「レバー、ダンス、原子力」という風につけてみたけど、
スペースと流れの関係でダンスについては書くことができなかった。
また今度書こうと思う。

――――――――――参考文献――――――――――
レバ刺しを楽しむために ~安全な生食用食肉の供給は可能か?~
http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20091120/1258700706

原子力委員会「食品への放射線照射について」
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/syokuhin/detail/20060926.pdf

産経新聞「生食用食肉の衛生基準 5割近くの施設が守らず」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110614/crm11061423280041-n1.htm

朝日新聞「牛レバー、汚染6% O157など腸管出血性大腸菌」
http://www.asahi.com/national/update/1220/TKY201112200218.html

厚生労働省「牛肝臓の生食(「レバ刺し」等)に関するQ&A」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syouhisya/110720/qanda.html

厚生労働省「食中毒 病因物質別の情報」
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/03.html

厚生労働省「生食用食肉の衛生基準」
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1009/h0911-1.html

厚生労働省、薬事・食品衛生審議会
「12月20日・生食用牛レバーの取扱いについて」
http://d.hatena.ne.jp/seikatukankyou/20111221/p1

個人のブログ。こういう声の方がどちらかといえば優勢。
http://blog.goo.ne.jp/rodoriguez2438/e/c813db06f7300286c44acdaa1fdf5bb9

デイリーポータルのレバ刺し特集。
ちょっとグロテスクだがとても美味しそう。
http://portal.nifty.com/2009/11/04/c/

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