電柱の数は調べたほうがいい

「日本全国に電柱は何本あるでしょう?」

という問題は、かなりおなじみのもので、
就職活動中の大学生なら、ほとんどの人が知っているはずだ。

これはいわゆる「フェルミ推定」と呼ばれる問題の一種で、
実際には測るのが難しい(あるいは測りようがない)ものについて、
仮説を立てて、その仮説に基づいておおよその数値を計算する、
という種類の問題である。

答えの数値が実際に正しいかどうか、というよりは、
答えを出すプロセスが評価の対象になる珍しい問題だ。
地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」
という、コンサルの人が書いた本で一躍有名になった。

その本に載ってる解き方でいうと、
日本全国を市街地と郊外に二分し、
市街地の電柱密度と郊外の電柱密度をなんとなく予測して、
日本の総面積38平方キロメートルを、
まあ市街地:郊外=2:8ぐらいかなーと考えて、
そして、電柱密度と面積をかけて、
だいたい3000万本じゃないかなーと算出する。というもの。

筆者によれば、こういう問題を出されたときに、
すぐにグーグルに頼ろうとするのは「検索中毒」であり、
「思考停止」に陥っているとのこと。
自分の頭で考えることを放棄しているから、
何も考えずに検索してしまうんだと。なるほどそうかもしれない。

でも、今日なんとなくそのことを考えていたら、
彼の言っていることはすこぶる間違っているんじゃないかと思えてきた。

我々は、考えた上で検索しているのであって、
思考停止しているから検索するんじゃない。
というよりは、「計算したうえで思考停止」している。そう思った。

どういうことか?

ここで出されているのは、
「日本全国に電柱は何本あるでしょう?」という問題だ。
で、この問題のゴールとはすなわち
「電柱が何本あるかを知ること」だ。

電柱が何本あるかを知るのに最もよい手段はなんでしょう?

1.自分の足りない脳みそと乏しい知識で仮説をでっちあげて、
 それに基づいて計算していく。

2.全国行脚の旅に出て、電柱を1本1本数えていく。

3.2の作業をすでにやってくれているNTTさんの
 ホームページに行き、電柱の数を教えてもらう。

誰が考えても3である。
コストとリターンの関係で考えよう。

1.コストは少々かかる。(自分の頭で考えるというコスト)
 リターンは不確実。自分の出した数値は間違っているかもしれない。

2.コストはアホほどかかる。伊能忠敬になりたいのか?
 リターンも不確実。歩き忘れた道もあるかもしれないし、
 ウン十年かけて日本を歩いているうちに、新しい電柱ができているかもしれない。

3.コストはほとんどかからない。
 リターンはかなり確実。なんせ、電柱の専門家が数えているのだから。

というわけで、コスト・リターン分析を行った結果、
3がもっとも効率的かつ効果的な手段であるとわかる。
本当に頭のいい人間は、グーグルを使うのだ。

で、この意見のズレは何からくるかというと、
ゴール設定の違いが原因である。

すなわち、私にとってこの問題のゴールは
「電柱が何本あるかを知ること」だったけど、
彼(著者)にとってのゴールは
「自分の頭で電柱の数を予測すること」にある。
それなら、確かに1番がもっともよい選択肢だし、
それ以外の方法をとるべきではない。

でも、そんなゴール設定の仕方ってあるか?

このゴール設定が役に立つのは、
おおむね2つの特殊なシーンにかぎられる。

ひとつは、採用試験などの場所で、
その人にどれだけ考える能力があるか知りたいとき。

もうひとつは、脳トレをしたいとき。

ふつうの仕事において目標とされるのは、
圧倒的に「電柱が何本あるかを知ること」の方である。
で、そのための手段を選ばないのが普通である。
手段に対して変な制限をかけるのはマイナスだ。

そういう風に考えていくと、
我々が考えるべきなのは、けっして電柱の数ではなく、
もっと何か別のことなんじゃないかと思えてくる。
それはなんというか、グーグルで調べれば出てくるようなことではなくて、
ヒトの頭でしか思いつかないこと、新しいアイディアだったり、
人の気持ちを考えたり、自分を振り返ったりとか、
そういうことの方が、よほど考える価値がある。
考える価値のあるものは考えるべきであって、
そうでないものは、グーグルでも百科事典でもなんでも使えばいい。
現代ほど「調べること」のコストが低下している時代はないから、
調べられることはどんどん調べてしまったらいい。
「自分の頭の中の方が現実より正しい」というのは
きわめて危険な考え方で、思考停止の方がはるかにマシだ。

一般的に我々は自分の能力を過信するし、
「自分の考えは、100%合っているとはいえないけど、
 でもだいたい正しいはずだ」ってことは、
たぶんほとんどの人が思っている。
私もそう思っている。これはもうしょうがない。
そうでないと普通に生きていけない。

だから、自分の頭で考えるというのは、
本来はすごく危ういことだ。
我々は思考停止するし、グーグルに依存する。
それでいい。
いいのだけれど、グーグルや百科事典を見ても
どうしようもないことについては、考えるしかない。
ただ、これだって、自分ひとりで考える必要は無くて、
誰かと一緒に考えてもいい。その方がいいこともある。

要は、私の主張を3点にまとめると、

1.電柱の数は調べたほうがいい

2.考える意味のあることを考えよう

3.考えるときの手段は選ばないようにしよう

の3つである。

・・・なんだかビジネス書っぽい終わり方になってしまった。

広告

0 Responses to “電柱の数は調べたほうがいい”



  1. コメントする

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中





%d人のブロガーが「いいね」をつけました。