リスクに関する4つの間違い

われわれはリスクに対してどういう間違いを
してしまうのか、ということを考えていくと、
だいたい4つのタイプに分けられる。

1.「リスクを測り間違える」
2.「集中と分散を間違える」
3.「待つときと即決するときを間違える」
4.「ゼロにしようとする」

以上4つになる。
順番に考えていこう。

1.「リスクを測り間違える」

今日はたまたま9月11日だが、
2001年9月11日のテロ直後、人々は飛行機に乗るのをやめた。
テロ攻撃の数日後に民間航空便の運行は再開したが、
離陸した飛行機はほとんど空だった。
テロリストにハイジャックされる確率はわずかかもしれないが、
それでもあの映像を見たあとでは、飛行機に乗る気はなくなる。

しかし、人々は移動をやめたわけではない。
アメリカというのはものすごく飛行機国家なので、
けっこう飛行機は頻繁に使われる。でも飛行機は危険だ。
かわりに人々は安全な自動車で移動することを選んだ。

安全な自動車?

アメリカがテロ大国になって、
飛行機が1週間に1回ハイジャックされるとしよう。
「今週もまた悲劇が繰り返されました」というニュースが
絶え間なく流れるような世の中になったとする。

でも、この状態で1年間、毎月1回飛行機を利用したとしても、
あなたが死ぬ確率は135,000分の1にすぎない。

かわりにあなたが「安全な自動車」に乗って移動したとすれば、
自動車事故で死ぬ確率は6,000分の1になる。

増えてる?
そう、増えている。

2001年9月11日から2002年9月まで、
アメリカ人は飛行機より車を好んで利用するようになった。
その結果、何人が自動車のせいで死んだだろうか?
ある統計によると、
その数は例年より1595人多かった。
9.11の飛行機に乗っていた人数の6倍。
亡くなった人の家族以外は、ほとんど誰もこの事実に気づかなかった。

これが「リスクを測り間違える」ことである。
安全なものを危険と思い込み、危険なものを安全と思い込む。
リスクを避けたつもりで別のリスクに直面する。
こういうことはしょっちゅうある。

我々は、「0.01%の確率で危険なもの」と
「0.0003%の確率で危険なもの」の差が認識できない。
どっちも「危ないもの」と考える。
まして、両方ともが死をもたらすものである場合、
0.01%の確率で死ぬものと同じぐらい、
0.0003%の確率で死ぬものを怖がる。

2.「集中と分散を間違える」

「1つのかごに卵を盛るな」というのは、
投資をやっている人なら誰もが知っている格言だ。
全部の卵を1つのかごに盛ってしまったら、
1度こけたらみな割れる。
そうならないように、いくつかの投資先に
分散投資すべし。分散投資はリスクを軽減する。

ここまではだいたい合っている。
ひとつの投資先に集中投資するのは、
投資家としてだいぶクレイジーな行いだ。

けど、分散投資がつねにベストの策とは限らない。
たとえば、ある企業の株の過半数を獲得して、
企業を乗っ取ろうとしている投資家がいる場合、
どうなるだろう?

また、そういう競争にあなたが参加しているなら、
なおのこと分散投資は逆効果となる。
どこかで過半数をとって、何かしら企業を乗っ取らない限り、
他の株主の言いなりになるからだ。

モノポリーをやったことがある人なら誰でもわかると思うが、
(中盤以降は)いろんな色の物件を持っていてもしょうがないし、
水色と赤色に家を1件ずつ建ててもしょうがない。
水色にホテルを3件建てるべきなのだ。
資金に自信があるなら赤にホテル3件でもいい。
資金や余力によって、どこに集中すべきかは変わってくる。

「分散投資」が成立するのは、
投資のスケールと収益が一定のときに限られる。
たとえば株は、10株持っていても1000株持っていても、
ひとしく値上がり・値下がりするけれど、
ファイナンシャルプランナーの勉強とかいうものは、
ちょっと勉強したからといってちょっとファイナンシャルプランナーに
なれるわけではない。ある一定量を超えるとファイナンシャルプランナーになれる。
それ以下では収益率はまったくのゼロだ。雑学が増えた程度で終わる。

分散と集中、どちらがよりよい手段なのかは、
その時々で考える必要がある。
が、分散投資が成立する条件を考えると、
現実世界の多くは、むしろ分散投資がリスキーになることが多い。

3.「待つときと即決するときを間違える」

「リスク」というのは基本的に「未来」を含む話なので、
「未来」が確実であればあるほど、リスクは少ない。
「未来」が完全に確定している場合、リスクはゼロだ。

ということは、「未来」が「今」に近ければ近いほど、
リスクは少ないんじゃないか?
5年後のことはまるで予測できなくても、
明日のことを予測するのはそこそこできるのではないか?

リスクとは何かの決断にともなって生じるものだから、
決断のタイミングを後ろにずらすことができるほど、
リスクというのは小さくなっていく。理論上は。

金融商品には「オプション」というものがあって、
これは「数週間後にA社の株を○○円で買う権利」のことだ。
(もちろん、数ヵ月後、A社とB社、売る、とかでもいい)

数週間後にA社の株が○○円より高くなっていたら、
そのぶん儲けることができるし、
○○円より安くなっていたら買わなければいい。
「買う」という決断のタイミングを後ろにズラせるのが、
オプションのいいところだ。
実際これを考えた人は天才的だと思う。

(Wikipediaによれば、「万物は水である」と説いた
 哲学者タレスがこの仕組みを使っている。実は相当古い)

もちろん、この権利はタダで手に入るわけではなく、
この権利自体が取引の対象になる。マネーゲームってのはすごい。

そして、まさに「その権利自体にお金がかかる」というところが
問題になってくる。

たとえば「今後10年間にわたって、いつでも1ドルを110円で買える権利」
というものを設定したらどうなるだろう?
それがもし、5年前だったら?

5年前、1ドルはだいたい110~120円ぐらいだったので、
この取引はかなりお得に見える。
けど、5年経った今、この権利はまったく無意味になる。
1ドルは80円なのだ。誰がこの権利を行使するのだろう。

ずっと待っていれば、また3年後ぐらいに
1ドル120円時代がやってくるかもしれない(たぶんないけど)。
けど、為替のような変動が大きい世界で、
「10年」という長期設定をするのはどう考えてもミスだった。
長期にわたって「待つ権利」を購入することは、
むしろリスクを抱え込むことになる。

4.「ゼロにしようとする」

けっしてゼロにならないものをゼロにしようとすると膨大な費用がかかる。
ちりひとつ落ちていない家を実現するのに何時間掃除すればいいのだろう。

千夜千冊『現代社会のゆらぎとリスク』の回より
「どんなシステムであれゼロ・リスクを求めようとすることが最大のリスクなのである。
 リスクを排除しようとするシステムは、
 必ずや自身のシステム維持コストの増大に悲鳴をあげるにちがいない。」

リスクには2種類あって、単純にイヤなリスク(「純粋リスク」)と
リターンと結びついたリスク(「投機的リスク」)がある。
単純にイヤなリスクは減らせるにこしたことはないけど、
リターンと結びついたリスクは、ゼロにならないししてはいけない。

そして、その「純粋リスク」のほうですら、
若干は「投機的リスク」の性質をもっている。

病気にならないために一切アルコールを口にしない。
頭を怪我しないために一切自転車に乗らない。

こういうのも結局はリターンと結びついているので、
リスクを減らすということは、やっぱり何かを失う。

けど、リスク嫌いにとっては、どうしてもこのことが耐えられない。
「リスクがけっしてゼロにならない」ということは
頭でわかっていても、精神的に受けいれられない。

あるいは、そこまでいかなくても、
リスクを減らそうとするあまりに、
かえってリスクから被るマイナスよりも、
リスク回避費用の方が高くつくことはしばしばある。

5.「おまけ:リスクと心理学」

どういうときに人はリスクを過大評価するか、というと、
次の2つが大きな要因らしい。

「未知のもの(よくわからないもの)」
「恐ろしいもの」

放射能は典型的にこれに当てはまっていて、
目に見えないものだし、浴びた影響がすぐには現れない。
その身体的影響も未知だし、つまり、
「よくわからない」。

「恐ろしいもの」ってのは抽象的なので、
具体的に説明すると、
「コントロールできない」
「重大な被害をもたらす」
「不平等にふりかかる」
といった要素が「恐ろしい」に含まれている。
例えばなまはげはコントロールできないし、
重大な被害をもたらす(ように見える)し、
普段いい子にしていても「悪い子はいねがー」と襲ってくる。
なのでなまはげは恐ろしい。

いっぽう、放射能はというと、
風の影響で日本全国に散らばってるとかいうし、(制御不可能性)
その影響も重大だと言われている。(重大な被害)
健康体とかそうでないとかに関係なく(不平等性)
放射能は影響を及ぼす。
ぴったり「恐ろしい」の条件に当てはまっている。

こういうものに対しては、人々はより危険に感じる。

今まで行ったことのない土地に行くなんてのも、
「よくわからないもの(場所、人)」だし、
「コントロールできないもの」だ。
そういう意味では個人海外旅行というのはリスキーに思えるけど、
(それに比べてパックツアーの安心感よ)
このリスクを負わないことには世界を楽しむことができない。

要は、自分が初の個人海外旅行で不安を感じていますよ、
という話だったりするんですけどね。

リスクを過度に恐れないようにして、
行ってきたいと思います。

――――――――――――――――――――――――――

9.11の飛行機うんぬんの話は、
ダン・ガードナーの『リスクにあなたは騙される』より。

投資とかオプションの話は
山口浩の『リスクの正体!』より。

リスクの心理学については、
中谷内一也の『環境リスク心理学』が
読みやすくてくわしい。

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