不思議の国のペンダント

遠い国の話である。
国の名前はもう忘れてしまったが、
国旗が赤かったことだけは覚えている。

ある若者が、「魔法のペンダントを売ってこい」と、国王から命じられた。

正確には、「売ってこい」ではない。「配ってこい」と行った方が正しい。
なにしろ、このペンダントをもらうのには、なんの費用もかからないのだから。

ただ、配るといっても、ティッシュみたいに街頭で配るわけじゃない。
国王は2つの条件をつけた。

「お前の友人、知人、親戚、顔見知りなどに、このペンダントを配るのだ。
 見知らぬ人に配ってはいけない。

 そして、このペンダントを渡すときには、
 「そいつの本当の名前」を知らなくてはならない。
 ふつう我々の国では、親しい人にしか本当の名前は教えないものだが、
 なんとかして、これを教えてもらうのだ。

 もちろん、名前を教えてもらうのは難しいと思うかもしれない。
 しかし、このペンダントがあれば、いつでも魔法が使えるし、
 いざというときに魔物を召喚することもできる。
 こんな便利なペンダントは、みなが欲しがるに決まっている。
 そう難しいことじゃない。さあ、配ってこい。」

なるほど、そのペンダントは実際、どうやらかなり便利なようだし、
持っていたからといって魔力を吸い取られるとか、
あるいは勝手に作動するとか、そういうことはないようだ。
勝手に動かなくなったりすることはあるみたいだけれど。

ただ、どうだろう、そんなうまい話があるだろうか?
だって、そんな力のあるペンダントを配るだけ配って、
はいおしまい、で済むわけがないだろう?

考えられるのは3つ。

1.国王はほんとうに単なる善人で、気前よく配っている。

2.国王は手に入れた人々の「本当の名前」で、何かしようとたくらんでいる。

3.国王は人々に魔法の使い方を覚えてほしい。

そういえば、その国は当時、国力が低下していて、
魔法を使える人が徐々に減っていたらしく、
そのことは深刻な兵力不足となって現れていた。
このことを解決しようとして、国王はペンダントを配ったのかもしれない。

そう考えると、あながちペンダントを配るのも悪くないかもしれない、
そう思って、若者は、親戚の家を訪ね歩いた。

親戚は、不思議に思いながらも、
気前よくペンダントをもらってくれた。

書き忘れていたが、ペンダントをもらうのには結構めんどうな儀式が必要だ。
といっても3分ぐらいなのだが、なかなかめんどうだし、少し怖い。
なにしろ自分の「本当の名前」を教えるのだ。
もしも悪用されたり、国中に知れ渡ったりしたときのことを考えると、
そうそう簡単にできることではない。

そんな不安をもちつつも、
親戚は国王の残忍さ、残虐さを知っていたので、
かれに厳しい罰を受けさせるわけにはいかないと思い、
その儀式をなんとかこなしてくれた。

この親戚を見て、若者はこう思った。

「はたしてこのやり方は正しいのだろうか?」

というのも、親戚は、その若者に対する親愛の情、いわばお情けで、
ペンダントをもらってくれているのであって、
本当にペンダントが欲しいからもらっているわけではない。

親戚のとこは一通りまわったので、今度は友人のとこに行こうと思っているが、
はたして友人にもこのようなことをしてよいのだろうか?

たとえば、ここに、ペンダントはまったく欲しくないが、
かれのことは大切に思っている友人がいたとする。

すると、その友人は、おそらくペンダントをもらってくれるだろうが、
そのことで友情にひびが入ったりするんじゃないか?

いや、しかし、友人からものを売られるのは不快なんだろうか?
相手の立場に立って考えてみると、そこまで不快ではないかもしれない。

たとえば、ある友人から、
自分が出るライブに来てほしい、と言われた、と考える。
その場合、その友人がよほど嫌いか、
あるいは友人の音楽にまったく興味がない場合でなければ、
行ってもいいかな、と思うし、
断ったからといって、特になんの問題にもならなさそうだ。
いままでどおり友情は続くだろう。

ということを考えると、友人の作っているものにたいして、
お金を払うのは、とくに問題にならなさそうだ。

では、こういう場合はどうだろう?

同じくらいの親しみをもっている友人が、
同じようにライブの誘いをかけてきた。
ただし、誘い方がぜんぜん違う。
友人によると、そのライブは、友人はまったく気に入っていないらしく、
こんなライブはクソつまらないと思っている。
チケットノルマがあるから仕方なく売っているという。
会場に来たら耳を塞いでいてもいいので、
できれば来てくれないだろうか?
と、誘われたとする。

たとえ無料だったとしても、これはあまり行きたくないライブである。
というのも、そのライブに行くことによって得るものが、
「ちょっとその友人に貸しをつくる」程度のことしかなく、
ライブそのものからはまったく幸福感を得られないというか、
むしろ時間の無駄でさえあるのでマイナスになっている。

ということを考えると、
やはり、若者は「よい」と思っていないものは配れない、
という風に考えた。

そして、現に若者は、国王のペンダントに関して、
おおいに疑っているところがある。
人々の名前を集めてどうするつもりなのか、
本当にきちんと魔法が使えるのか、などなど。
なにしろ国王は独裁的だし、
本当にひとびとを幸せにする気があるのかどうかわからない。

しかし、もしこのペンダントを配り終えなければ、
どんな罰が待っているかわからないし、
おそらく最低でも国外追放はまぬがれないだろう。
もちろん、そんな国ならさっさと出ればいい、ともいえるのだが、
家族や仲間もこの国に住んでいるから、そう簡単には出れなかった。
なにより、この国を追放されたらどうやって生きていけばいいのか。
そう考えると、なんとしてもペンダントを配らなければならない。
配らなければならないのだが、
そのために本当に仲間たちに「本当の名前」を教えてもらってもいいのだろうか。
国王の権力を笠に着て、強制的にペンダントを渡すのもイヤだったので、
若者は、本当にペンダントはいいものかどうか、よく考えることにした。

つづく。

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